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沖縄の思い出
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長編5分
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中学の修学旅行で沖縄に行ったことがある。 「修学旅行の目的地が沖縄」と言うと羨まれるかも知れないがそんなに良い物でもなかった。というのも俺達の学年の主任教師をやっていた社会科の先生が戦争について尋常じゃないほど関心のある人(左寄り)だったので、社会化の授業内容はほぼ1年中日本軍が引き起こした惨事などが中心になっていた。 なので沖縄にいくことになったのも、「中学の思い出作り・・・」というよりは「実際に戦場になった土地で戦争の残酷さをしっかり学習する・・・」というのが目的だったからなんだと思う。今思えば沖縄やサイパンのように当時激戦区になった土地は明らかにヤバイ筈なのだからもっと注意して行動すればよかったのかも知れない。 修学旅行の内容は畑の地下に掘られた防空壕の見学とか、ヒメユリの塔の記念館の見学とか、実際に沖縄戦を経験した当時の女学生さん(今はおばあさん)のお話を聞いたり・・・といったもので、修学旅行なのに全然楽しくなかった。正直かなり気が滅入る内容だった。 その反動で、「自由時間使って飛び切り楽しいことやらんと身がもたん」と思うようになっていた。旅行前半は本島での行動だったが、後半は渡嘉敷島のような離島に移動した。 (その離島が何という名前だったかは覚えていない)その離島での宿泊所は、戦時の米軍のベースキャンプ用に建てられた施設だった。島全体を見渡せる丘陵全体を覆うように敷地が広がっており、その丘の中腹に宿泊施設が建っていた。 敷地の広さはこれでもかと言うほど広大で、端から端が見渡せないほど広かった。(何十キロもあるそうだ)宿泊施設は敷地の端っこにあり、そこから先は延々と野原と森が広がっているのだ。 丘の向こうには一体何があるのか確かめてみたい、そうゆう一種の冒険心をくすぐられる景色だった。夕方になって自由時間があった。 部屋ですることもなく呆けていると、俺と同じようなことを考えた奴がいたようで、一緒に探検しにいかないかと持ちかけてきた。2人だけでは寂しいのでもう1人連れてゆくことにしてそばにいた奴を誘った。 そいつは自由時間が割りと短めだということを理由に同行するのを嫌がったが強引に誘った。結局3人で探検しに行くことになった。 出発するころには日が沈んで辺りが暗くなり始めていた。(以下誘ってきた奴をK、オマケ君をFとする)ところで沖縄にはハブがいる。 もちろんその離島にもいる。ハブは咬まれたら血清を注射してもらわないとまず助からないという恐ろしい毒蛇である。 咬まれてパニックになり動き回るのもよくない。咬まれたときは人に助けてもらうしかないのだ。 ベースキャンプの敷地はネズミ返しのような特殊な塀で囲ってあり、一応はハブが侵入しない様になっているのだが・・・本当に安全なのは宿泊施設周辺だけである。だから自由時間中も宿泊施設からなるべく離れないように注意されていたのだが、駄目といわれたら余計にやりたくなるのが子どもだ。 俺達は一時の好奇心に任せてかなりの冒険を冒してしまった。3人で丘を登ってゆく。 進むに連れて道はどんどん狭まってゆき両側の草むらが迫ってくる。ハブがいそうな場所はまさにそうゆう場所なのでちょっと怖い。 Fが「危ないから帰ろう」としきりに言う。俺とKはそれを無視してガンガン進む。 ハブは確かに怖いが、冒険をしているという興奮と高揚感が危機感を麻痺させていた。宿泊施設が後ろに遠く小さくなった頃には辺りは真っ暗になってしまっていた。 そうなった頃になってようやく俺も怖くなってきた。もし本当に草むらにハブがいたら、この状況で咬まれたらまず命が無いのだ。 内心ものすごく逃げ出したかったが、びびってることをKに悟られたくない俺は必死でKについていった。Fは泣き泣きぐずりながらもついて来た。 Kは人が変わったように一心不乱に突き進んでいた。しばらく進んで、もう洒落にならん位怖くなったので俺はFと一緒になってぐずる事にした。 もう怖くて怖くて体裁など構っていられない。Kは最初は聞き訳がなかったが俺とFの必死の嘆願にようやく戻ることにしてくれたようだ。 来た方向を振り返ると宿泊施設の明かりが小さく、その遥か向こうに港町の明かりが点々と輝いていた。ここまで来たが草むら以外に何も無かった。 怖い思いをしたが何も収穫が無かった。ただ振り返る直前に進んでいた草むらの向こうに何かチラリと光った気がしないでもなかったが、その時はなんとも思わなかった。 後になって考えると恐ろしい。宿泊施設に戻ると思ったよりも遥かに時間が経過していたらしく、「生徒が3人行方不明になった」と先生達が血相を変えて待っていた。 もちろんかなりコッテリと絞られた。生徒がハブにかまれたときのことを考えてヘリを呼んで警察に捜索願を出そうとしていたらしい。 色々あって修学旅行が終わったが、沖縄から戻ってからというものKの様子がおかしい。以前はそんなことをする奴ではなかったのだが、奇声を発しながら机やロッカーなどを殴ったりする。 それに妙にカリカリしていて短気になった。まるで不良みたいだ。 そのうちKは学校に来なくなってしまった。しばらくして登校するようになったときには以前通りのKに戻っていたので安心したものだ。 どうしたんだとKに聞くと、Kはどうやら憑かれていたようだ。Kの家系は代々霊感が強いらしく、Kは見えたりはしないのだが物凄く憑かれ易い、霊媒体質とでも言うのだろうか、そうゆう体質だそうだ。 沖縄から戻って以来性質がおかしくなったKを見たKの祖母は、親戚の仲で特に力の強い人を頼って診てもらったそうだ。なんでもKは10数体もの霊にとり憑かれていて、普通に生活していたのが不思議なくらいだったそうだ。 その中の格闘家の霊の影響で暴力的な行動を起こしていたらしい。その親戚の方がねんごろに霊の供養をしたお陰でなんとか普通に戻れたそうだ。 そのことと合わせてもう一つの事実を聞いた。今になってもその事がかなり恐ろしい。 あの離島での冒険でKはひらすら進んで行ったのだが、後で地図で確認するとその進んでいた方向には戦争で亡くなった方々の慰霊碑が建てられた霊園があったらしい。一咬みで命を奪うハブ・慰霊碑・Kにとり憑いた霊・・・俺達はあの日何かに引き寄せられて行ったのかも知れない。 今でも沖縄と聞くとあの日のことを思い出す。こう言っちゃ何だがあの土地へ遊びに行く人たちの気が知れない。 もう2度と行きたくない。
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