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時計と時間
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先輩にオカルト好きな人がいる。 先輩といっても、別におれはオカルトクラブに所属しているわけではなく、 彼がただ単に学年が上で、ただ単に近所に住んでるからよく話すだけだ。 そんな彼と、いつものように放課後、 一緒に帰りながら話していた。 俺はふと、友達から聞いたある事件の話を思い出した。 といっても、くだらない嘘の話だと思っていた。 その事件とは、ある国である物理学者が、ある時を境に一切動かなくなった。 というものだ。 その男は、時計と、机と、紙とペン、 そして窓を完全に塞いだ部屋で研究に没頭する、という変な男だった。 研究対象は”時間”。 大抵は毎日研究施設に、同僚とコーヒーを飲みに来ていた。 しかし、ある日を境に研究施設へ足を運ばなくなった。 2,3日目までは彼の同僚たちも、 「きっと何か素晴らしいアイディアを思いついたに違いない」 「研究に没頭しているのだろう」 と考えていた。 しかし1週間たち、流石におかしいと思った同僚たちが、 彼の自宅を訪れ、彼の研究室の扉を開けた。 するとどうだろう。扉を開けた瞬間に、 その男が部屋の中で崩れ落ちたのだ。 同僚たちは走り寄り、大丈夫かと問うた。 意識があった男は、 「ああ、よかった。突然全身に力が入らなくなったんだ。 丁度いい所にきてくれたね。ああ、何だ、目が痛いよ」 と礼を述べた。 「一週間も何をしていたんだ」 同僚が言うと、男は 「何を言っているんだ。君には昨日会ったじゃないか」 と。 同僚が 「何を言っているんだ。君は一週間施設に来なかったんだぞ」 と言うと、男はこう言った。 「何を馬鹿な。私はついさっきまで普通に研究を続けていた。 一週間なんぞ決して経ってない。 ほらみろ。あの時計は○日の○時を指しているじゃないか!」 そこには、日付と時間を指すタイプの時計が、 一週間前の日のある時間を指して止まっていた。 男の話からすると、男は一週間前から一切動かずその場に居続け、 同僚が部屋に入ってきた瞬間、突然倒れたのだった。 先輩に、この嘘のような話に対する意見を聞いた。 君は、例えば数億分の一秒、数百億分の一秒、 もしくは数秒、数分、例え数時間ずれた時計を見ても、 「ああ、今は何時だ」 と思うのだろうね。 普遍的な時間の流れがあるか、それはわからない。 物理学的にはあるかもしれないね。 僕は詳しくないから知らない。 でも、君は時計を見たときに、 「今は何時だ」 と考える。 それが例え、いわゆる標準時、 電波時計なんかの”正しい”とされている時間から、 数時間、半日ずれていたとしても。 つまり、ある時計が示す時間、それが君にとっての時間だ。 例えば、君が12時間ずれた時計を見て、 「ああ、今は何時だ」 と思っても、そのうち周りの環境なんかで、 時計がずれていることに気付くだろう。 じゃあ、時計が止まってたら? 君は時間が止まったと思うかい? 思わないだろう。 物の動きや音、それが進んでいるのに、 時間だけが止まったと考えるかい? 普通の人は、時間が止まれば物の動きも止まると思うだろう? 時間を止めていたずらをするなんて想像をよくするしね。 その男は、とても特別な空間にいたんだ。 動くものは時計だけ。 きっとその部屋は、外の雑音なんかも聞こえないような構造だったんだろうね。 そこに時計が無ければ、そんなことにはならなかっただろう。 物や音が進んで無くても、時間が止まっているなんて考えないから。 問題は、そこに”止まった”時計があったことだよ。 言っただろう? ”ある時計が示す時間がその人にとっての時間” って。 男は止まった時計を見た。 男の周りには、他に動くもの、音は無い。 気付けなかったんだよ、本当は時間が進んでいたことに。 時計を見て、時間が止まっていた。 時間が止まっていたのなら、彼は当然動かない。 いや、動けなかったんだ。 全ては彼の中だけの話だよ、確かにね。 でもね、彼にとっての”時間”は止まってたんだよ。 事件の話も先輩の説明もうそ臭いとは思ったけど、 まぁ面白い考えだとは思った。 でも事件の話は、グーグルとかじゃ出てこないんだよね。
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