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最後の声
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大学進学も決まった高校卒業間近のある日、 家の壁に軽く右肩をぶつけただけで激痛が走った。 大学病院で精密検査をした結果、 骨肉種だという診断が下された。 骨肉種の治療としては、 主に手術と、手術前後の抗がん剤治療が行われ、 (順調に治療が進んだ場合でも) 大体1年近くの入院が必要となる。 手術が終わり、 再び地獄のような抗がん剤治療が始まろうとする頃、 俺より1歳年下の男子高校生が同じく骨肉種で入院してきた。 歳が近く、同じ難病を抱え、 個室も隣同士ということもあり、 俺達は自然と仲良くなり、 体調のいい時は部屋で一緒にゲームをしたりもした。 (個室で且つ入院期間が長い場合、 特別に据え置きゲーム機の持込が許可されていた。) 幸い俺の骨肉種は悪性度が低く 比較的早期発見だったため、 術後の転移もなく、 順調に抗がん剤治療が進んでいた。 一方、隣の男子高校生は、 日に日に体調が悪化しているようだった。 更に悪いことに、 彼は抗がん剤の副作用がとても激しく、 抗がん剤投与後数日は、 1日中ゲーゲー吐く音が隣の部屋から聞こえてきていた。 数ヵ月後、 後1ヶ月程度で退院できるという段階になったある夜、 いつものように隣の部屋からゲーゲー声が聞こえてきていた。 もう何週間も隣の彼とは会話できていない。 すると突然いつもの吐く音とは違う何か 「グゲェ!」というような声が聞こえ、 それ以降、隣の部屋からの声は聞こえなくなった。 嫌な予感がしつつも その夜はそのまま眠りに着いた。 ふと部屋の外の騒がしさで目を覚ました。 時計をみると 夜中の1時45分だった。 バタバタ廊下を走り回る音と、 隣の部屋のドアを何度も開け閉めする音が聞こえた。 ただごとではないことを感じてはいたが、 何か言い知れぬ恐怖感を感じたため、 布団を頭から被り再び眠りに着いた。 翌朝、恐る恐る外に出てみると、 隣の部屋のドアは閉まっており、 一見いつもと変わらないように見えた。 しかしその後、 警察だが検察だかの人や、 泣きじゃくる隣の男子高校生の両親の姿を見て、 昨夜、隣の部屋で何が起こったかということは容易に想像できた。 その後、 俺は最後の抗がん剤投与を受けた。 この抗がん剤投与が終了すれば退院できるという希望を胸に、 苦しい吐き気や下痢と戦っていた。 夜中、激しい下痢に襲われトイレに向かった。 時刻は夜中の2時前頃だろうか。 3つある個室のうち、 真ん中のドアがしまっていた。 こんな夜中に?と一瞬不審に思ったが、 この病棟は抗がん剤治療患者が何人もいるので、 俺と同じように下痢になったんだろうと思い、 そのまま手前の個室に入った。 程なくして隣の個室から ゲーゲー吐く音が聞こえてきた。 やはり抗がん剤治療患者だなと思った次の瞬間、 「グゲェ!」という音が聞こえたかと思うと、 個室の壁をガンガン叩きだした。 突然の出来事に驚いた俺は、 「大丈夫ですか?! 今看護士さん呼びます!!」 と叫んだ。 すると、個室を遮る壁の上部から 青白い顔がニュッ!っとでてきてこちらを睨んだ。 死人のように青白いその顔はまぎれもなく、 以前隣に入院していた男子高校生だった。 そして、こう叫んだ。 「お前も死ねばいいのにな!!」 その1週間後、 俺は無事退院し、 1年遅れで大学に入学して、 幸い再発もなく健康に過ごせている。 だけど、あの声が・・・、 最後のあの声が今も耳から離れないんだ。 あいつが、 いつも俺のそばにいるんだよ!! --- 大学で知り合った友人宅で酒を飲んでいるときに、 友人から急にこんな話をされて驚いた。 腕時計をみると もう夜の10時25分過ぎを指していた。 なぜか、急にこの部屋から逃げ出したくなった。 「余り酷いようなら精神科に行ってみたほうがいい」 そう言い残し、俺は友人宅を後にした。 次の日、 友人が自宅で自殺したことを知った。 帰宅途中のサラリーマンが、 ベランダで首をつっている友人を発見したそうだ。 地元の新聞によると、 通報時刻は夜の10時30分頃だということだ。
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