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記憶退行
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俺が子供のとき、床屋で順番待ってるときに、置いてあった女性週刊誌で読んだ話だ。 ある、とても仲の良い若い夫婦がいた。仮にダンナの名を健一、嫁さんを由美子としておこう。 彼らにはとてもカワイイ娘もいた。まだ幼稚園に入る前で、年齢は3歳くらい(名前は「ゆかり」としておく)。 あるとき、由美子は、庭で洗濯物を干しているときに、急にめまいがしてきて、その場でぶっ倒れてしまった。健一はそのとき会社に行っていたが、幸い近所の主婦に倒れているところを発見され、救急車で病院へ。 知らせを聞いた健一は急いで病院に駆けつけた。「由美子!しっかりしろ、どうしちまったんだ!」健一は由美子の手を握り締め、必死に由美子に呼びかけた。 「ママ、目を覚まして!」娘のゆかりも父と一緒に呼びかけた。すると、由美子はまもなくして目を覚ました。 起き上がると、健一とゆかりの顔を交互に見つめながら、こう言った「ここはどこ?あなたたち誰?」それを聞いて、健一はびっくりしたが、一時的に彼女の記憶が混乱しているのかと思った。「俺はキミのダンナさんだよ」健一は由美子に言った。 由美子は健一の顔をジーっと見つめていたが、やがて叫んだ。「あ!あんた健一君ね?思い出した!」良かった、記憶喪失になったんじゃなかったか。 健一は安心した。続いて由美子は言った「冗談じゃない、何であんたがあたしのダンナさんなわけ?」「おいおい、何言ってんだよ・・・・」と、健一は言った。 記憶が混乱しているにしても妙だぞ。俺の名前は思い出してるのに・・・。 「あんたなんか大っ嫌い!とっとと出てってよ!」由美子は健一に叫んだ。「ママ、どーしちゃったの?」と、ゆかりは母に言った。 「お嬢ちゃんだーれ?あたしはママじゃないわ」と、冷たく由美子は言った・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・検査の結果分かった。由美子の意識は、どうやら中学生の時に戻ってしまったらしいのだ。 だから、娘のことを知らないのは無理もない。しかし、なぜ健一のことは知っていたのだろう?それは、健一は実は中学のときクラスメートだったからだ。 中学生のときから今みたいに仲が良かったわけではない。それどころか、健一は由美子のことをいじめていた。 由美子は健一たちのいじめのせいで、胃潰瘍を起こしたほどだった。中学卒業後、健一と由美子は別々の高校に進学し、2人が再会したのは、20歳代の半ばごろ、同窓会のときだった。 再会した健一は、由美子にとって、以前とは打って変わり、見違えるような優しい男に成長していた。たまたま就職先も住んでいる所も近かったこともあり、2人はやがて付き合いだし、めでたく結婚して現在に至ったわけだ。 もちろん、由美子は、中学のときのいじめなどは、完全に忘れているように見えた。・・・・・しかし、実は由美子は忘れていなかった。 中学生のとき、いじめっ子の健一に対して抱いた憎しみを、意識の底の無意識の領域にちゃんと保存していた。それが今回、何かのきっかけで、表に出てきてしまったようなのだ。 健一はあの手この手で、由美子の記憶を取り戻そうとした。嫌がる由美子を連れて、2人の思い出の地に行ってみたり、由美子に編んでもらったマフラーを見せたり、初めてエッチした時のことを語ったりもした。 しかし、エッチの話を聞いたとき、由美子は激怒して叫んだ「あんたなんかとそんなことするわけないじゃない!」「しかし、それやらなきゃ、ゆかりがいるわけないだろ?」「ゆかりなんて知らないわ・・・」結局由美子の記憶は元には戻らなかった。由美子は健一・ゆかりと共に再び暮らし始めたが、何度も実家に逃げてしまい、その度に健一に連れ戻されるということを繰り返していた。 ゆかりについても、自分の子供だとは思っていないので、何やっても叱ったりしないものだから、やがてゆかりはわがまま放題の子になっていった。ゆかりの将来を心配した健一は、由美子との別居を決めた。 ゆかりはむろん健一が引き取ることになった。しばらくして、由美子と健一は正式に離婚したという。
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