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七月三日
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長編5分
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ジリリリリリリ。目覚まし時計が激しく鼓膜を揺らす。僕はうんざりしつつも、目覚まし時計を止めて布団から出た。昨夜、大学の友人達と遅くまで飲んでいたせいか頭が酷く痛い。ぼんやりと立ち上がって携帯を開く。七月三日。普段通りの待受画面と共に、今日の日付が表示された。「朝は一杯の水から始めましょう」誰に言うでもなく水道水をコップに汲み、飲む。うん、カルキ味。テレビを点けて、朝食の準備に取りかかる。フライパンを熱しているとテレビのニュースキャスターが今朝の事件のニュースを読み上げ始めた。『今日未明、◯◯市の路上で惨殺遺体が発見されました。被害者は市内の会社員の男性…』「杉本静」意味もなくそう呟いた。『杉本静さん。30才で』冷蔵庫から取り出した卵を落としてしまった。僕はただ呆然とテレビ画面を見つめていた。どうして。どうして僕は被害者の名前がわかったのだろうか。気味の悪さで肩が震える。偶然だろう。無理矢理そう決めて、床の卵を片付けた。朝食を済ませると11時だった。だが、いまだに先ほどの気持ち悪さは残っている。気分を変えようと外出することにした。部屋を出て最寄り駅へ向かう。久々に服でも買いに行くつもりだ。最寄り駅のホームには僕の他に老婆一人しか居なかった。黒い服に身を包んでいる。葬式でもあるのだろうか。そんな事を考えているうちに、電車が到着した。僕と老婆は同じ車両に乗り込む。特にすることもなかったので、進む車窓を眺めていた。不意に、老婆が次で降りるな、と感じた。やはり彼女は、その駅で電車を降りた。後には、冷や汗をかいた僕だけが残された。目的地の駅に到着すると、僕はすぐさま改札を抜けた。少し恐怖を感じていたので、早く電車から離れたかったのだ。駅周辺はやはり休日ということもあってか、人で賑わっていた。ふと、前の女性の鞄から携帯電話が落ちるのが見えた。どうやったら落ちるん、と、辟易しながら彼女に声をかける。「あの、携帯落としましたよ」「え?あっ!!うわー、よかった。ありがとうございますっ!!」「あ、いえいえ」「本当助かりました」「あー、いえいえ」なんてとりとめのない会話が続いた。初対面の人との会話だから仕方ない。でも、どうしてだろうか。彼女とは初めて会った気がしない。「あのー、失礼ながら僕たち初対面ですよね」思わず聞いてしまっていた。彼女はビックリしたように目を大きくして、それから吹き出した。「ぷっ!!えーと、ナンパ?ですか?こんなアプローチ初めてですよ…ふふふ」「あー、えーと、ナンパとかじゃなくてですね…」「いいですよ。貴方おもしろいから、どこか行きましょうか」「は?」どうしてだろうか。何故か、したつもりもないナンパが成功してしまった。「カフェでも行きましょうか」隣の彼女が言った。僕は小さく「うん」と肯定した。しかし見れば見るほど見覚えがある。彼女に付いていったカフェでコーヒーを飲みながらそう思う。彼女はカフェオレを飲んでいる。「本当に見覚えない?」「うー?うー…いや、わかんないです」クスクス笑いながら彼女は答えた。まだ僕が運命信仰家である事を疑っているみたいだ。カフェを出ると、僕らは映画館へ向かった。最近話題の映画を観るためだ。「まさか、見知らぬ人と映画館来るなんて思わなかったですよ。今日の朝」「僕も」二人してぎこちなくチケットを買って、上映室の真ん中辺りの席へ座る。内容は人気サスペンスドラマの映画版だけあって、かなり質の良いものだった。しかし、途中で、またラストシーンがわかってしまった。しかもそれがまたもや正解したのだ。僕はただ、溜め息を吐いていた。「予想外なラストシーンでしたねー」映画館から出ると、彼女は興奮したように僕に熱弁してきた。時間は既に6時を回っていた。「夕食も食べる?」「折角ですしね」と、駅前のファミリーレストランへ向かった。「良かった?ファミレスで?」「はい。私、ファミレスのハンバーグ好きなんです。あの安っぽい味が」「あー、わかる気がする」「じゃあ、ハンバーグ頼むの?」「いいえ、たらこスパゲッティを」「ハンバーグじゃないんだ」なんて会話を楽しんで、僕達はファミレスを出た。「家行っていいですか?」突然の提案に、転倒した。驚きすぎた。「えーと、私かなり貴方を気に入っちゃいました。好きかもしれません」さらに突然の告白をされた。ただ僕は「うん」と肯定しただけだった。「汚い部屋ですが」僕は彼女を自分の部屋へ招いた。「おー、リ◯ックマ」僕のリラッ◯マクッションを抱きながら彼女は部屋をごろごろし始めた。その姿が可愛すぎて、思わず抱き締めていた。「あー、僕も君が気に入ったみたいだね…多分、好きだ」「きゅー」鳴きながら彼女がキスをしてきた。お返す。「今更ですが、私のお名前は笹原抄子です」あー、やっぱり聞き覚えあるわ。「今更ですが、僕のお名前は榎夏野です」「あれ?榎夏野?聞き覚えあります」「え?本当?」「まあ、もうどうでもいいじゃないですか」「それもそうかー」電気を消してベッドへ入り、僕達は眠った。こんな出逢いも、たしかにアリだよなー。ジリリリリリリ。目覚まし時計が激しく鼓膜を揺らす。僕はうんざりしつつも、目覚まし時計を止めて布団から出た。昨夜、大学の友人達と遅くまで飲んでいたせいか頭が酷く痛い。ぼんやりと立ち上がって携帯を開く。七月三日。今日も今日が始まる。
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