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【洒落怖】隣に引っ越してきた夫婦

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  • そんなに前の話じゃないんです。

    3年前の夏のことですね。

    自分は写真の専門学校に通ってまして、
    下宿屋みたいな木造アパート暮らしをしてるんです。

    これがまた絵に描いたようなボロアパートで、
    風呂なしトイレ共同、4畳半で月1万5千円です。

    壁は板のようにぺらぺらで、
    畳にはカビが生えて…

    ああ、安いでしょう。

    いくらボロでも都内だし
    駅まで5分ですからね。

    わけがあるんです。


    いやいや幽霊が出るとかじゃなくて、

    あと1年半で取り壊される予定なんで。

    最初からそういう契約で入りました。

    …どうせ取り壊す頃には学校は卒業してるはずですし。

    幸いなことに自分は角部屋で、
    隣は空きだったんです。

    だからプライバシーもそこそこ保ててたんですよ。

    それが隣に住人が入ることになりました。

    旦那さんが40代くらいかな、
    夫婦と3歳くらいの男の子です。

    前から大家さんに話は聞いてたし、
    引っ越しのときにあいさつにも来てくれました。

    いやあ、変な人たちには見えませんでしたよ。

    なんでも転勤したものの、
    こちらの社宅が工事中で、
    それが終わるまで2週間ばかり
    このアパートに滞在するってことでした。

    2週間くらいなら特に困ることもないな、
    と思いました。

    自分は昼はほとんど学校だし、
    夜もバイトで食事は外食、
    テレビもあまり見ない。

    部屋では寝るだけしかしてなかったんです。

    …最初の3日くらいは特に何事もありませんでした。

    向こうも気を遣ってたようですし、
    子どもが騒いだりすることもなかったんです。

    それが、4日目の夜だったかな。

    ドーンと壁に何かがぶつかる音で目が覚めました。

    隣の部屋のほうからです。

    そのあと夫婦が話しているのが聞こえましたが、
    またすぐ静かになったんですよ。

    もう一度眠りに入ろうとしたときに、
    ドシッと腹に響く音が聞こえました。

    そんなに大きな音じゃないです。

    米俵を竹棒みたいなので叩くような音…
    といえば近いかもしれません。

    それが間を置いて何度もくり返されるんです。

    ビシッ…ドシッ…と。

    何をやってるんだろうと
    少し気になりました。

    それで耳を澄ましてると、
    かすかに、かすかになんですが、
    何か生き物が泣くような声が聞こえてきました。

    注意しないと聞き漏らすようなごくごく低い声で

    「ウエェェェェェッ」

    という感じです。

    子どもを叩いてるんだろうか…
    まさか虐待?

    音は20分くらい続いて聞こえなくなり、
    自分も寝てしまいました。

    翌日はゆっくりだったんで、
    9時過ぎに部屋を出ると、
    廊下の向こうのトイレの前で子供が遊んでいました。

    どうやらこの子は
    保育園や幼稚園にはいってないようなんです。

    引っ越しの合間で
    まだ決まってないのかもしれません。

    夏場だから
    よれよれのTシャツに半ズボン姿でした。

    近寄っていくと
    おびえたような顔をしました。

    さりげなく様子を見ても、
    顔はもちろん手足にあざなどが出ているということもありません。

    昨日の悲鳴のようなのは何かの勘違いなんだろう、
    と思いました。

    念のためにと、子供に

    「ボク、兄弟とかいる?」

    と聞いたら、
    黙って首を振りました。

    やはり考えすぎか…
    とそのときは思ったんですが、
    音はそれ以後も続いたんです。

    決まって夜中の2時過ぎでした。

    その時間は
    まだ起きていることもあるんでわかったんです。

    やはりビシッという何かをしなるもので叩く音と、
    続けてあがる気味の悪い低い悲鳴…

    それが毎夜続いてるようだったんです。

    時間は最初のとき同じ20分くらいなので、
    不可解ではありましたが、
    迷惑というほどでもなかったんです。

    それから5日ほど後のことです。

    朝方トイレに起きました。

    時間はわかりませんが、
    まだ日は登っていませんでした。

    なるべく共同トイレは利用しないようにはしていましたが、
    朝はどうしようもありません。

    眠い目をこすりながら廊下に出ると、
    隣の部屋の入り口の戸が少し開いていました。

    そして…
    そこから不可思議なものが
    顔をのぞかせていたんです。

    体は猫より少し大きいくらいでしょうか。

    裸で体には毛がありませんでした。

    廊下の電気があたって黄色っぽく見えましたが、
    実際は青白い膚なんだと思いました。

    その上半身の一部がドアから出ていましたが、
    背中に棒状のどす黒いあざがいくつも見えました。

    きょろきょろほおずきのように赤く飛び出た片目を動かしていて、
    知性があるように思えました。

    それにまばらに毛の生えたそいつの頭が
    ひょうたんの形にゆがんでいました。

    ゆがみに合わせて片方の目が突出し、
    片方が陥没していたんです。

    …その頭にも、
    棒で叩いたようなあざが重なっていたんですよ…

    あと首輪をしていました、
    かなり重そうな鉄製のやつ。

    それがドアから出てこようとしたとき、
    首輪についてたひもが強く引っぱられ、
    頭をはさむようにしてドアの中に消えていったんです。

    ガチャンと音を立ててドアが閉まりました。

    いやもちろん目を疑いましたよ。

    …トイレには行きました、
    ガマンできなかったんで。

    部屋に戻ってから
    今見たものについてしばらく考えましたが、
    答えは出てきませんでした。

    ただ人間の奇形ではないだろうという印象はあったんです。

    毛を剃った犬かなにか…
    あるいは生き物ではないかもしれない。

    それと、
    何で自分がトイレに行くのに合わせるようにそこにいたのか…

    隣の夫婦に事情を聞くことは考えませんでした。

    首輪がついてたので
    ペットと言われればそれまでだし、
    もうあと数日で引っ越していなくなることがわかっていましたから。

    その後も夜中の奇妙な音は続きました。

    あの奇妙なものが叩かれてるんだと思いました。

    そしてくぐもったうめき声…

    状況が変わったのが
    夫婦が出ていく2日前のことです。

    最初にこのことに気がついたときのように、
    夜中壁にドカンと物があたる音がして、

    「ウンギャアアアアアア」

    と甲高い悲鳴が聞こえたんです。

    あれが叫んだんだと思いました。

    その後に旦那さんのほうの声が聞こえました。

    いつもは何を言ってるわからない低い声なんですが、

    「死んだじゃないかー、やりすぎたっ!」

    とはっきり聞き取れるほどの大声でした。

    「わたしのせいじゃないっ!!」

    と奥さんの声が続き、
    ぱたっと静かになったんです。

    次の日は日曜日でずっと部屋にいました。

    隣には引っ越しの業者が入っていて、
    一連の奇妙な出来事も
    もう終わりだとほっとしました。

    その夕方です。

    そろそろ外食に行こうかと思っていたときに、
    ドアがノックされました。

    顔を出すと、
    隣の奥さんが立っていました。

    膚がかさかさと乾いていて、
    何だかすごく齢をとったように見えました。

    奥さんは、

    「今までいろいろ世話になったし、
    うるさいこともあったでしょう。
    よかったら、最後だから夕食を食べにわたしたちの部屋に来ませんか」

    と言ったんです。

    これまでのことで気味が悪かったんで、

    「これから友達と約束があって外食するんです」

    と、丁重に断りました。

    奥さんはとても残念そうな顔をしましたが、

    「ああ、じゃあ」

    と言って走り出ていき、
    すぐにタッパーを手にして戻ってきました。

    「これ、実家から送ってきた鴨の肉の味噌漬けなんです。
    とってもおいしいからぜひ食べてくささい。
    フライパンで焼くだけでいいんです」

    そう言って自分の手にタッパーを押しつけ、

    「食べてくださいね」

    と、ふり返って念を押しながら戻っていきました。

    部屋に入ってタッパーを開けてみました。

    味噌のにおいがして中には白っぽい肉が入ってました。

    鴨の肉を見たことがないので、
    これがそうかははっきりしませんでした。

    これは食べられない、と思いましたが、
    せっかくの好意を無駄にするのも何だかという気がして、
    とりあえず冷蔵庫にしまおうとフタを閉めようとしたら…

    味噌漬けの肉片が
    波打つようにビクンビクンと動いたんです。

    今のは何だ?

    確かに動いたよな。

    これもしかして前に見たあれの肉なのか…

    そのままタッパーごとバッグに入れ、
    そっと外に出ました。

    駅前に行き、
    噴水にタッパーの中身をぶちまけ
    水で洗いました。

    タッパー自体は返さなくてはと思ったんです。

    翌日、朝早く隣が3人揃ってあいさつに来ました。

    とおり一遍の話をして
    タッパーを返したとき旦那さんが、

    「今までいろいろ声がきこえてたでしょう?
    あれが死んだことも知ってるんでしょう?
    それと昨日の肉…食べなかったでしょう。
    いや、いいんですよ、当然です。
    …私たちはもうダメかもしれません。
    あれを殺してしまったんですから」

    ささやくようにこう言って、
    肩を落として出ていきました。

    その後、
    自分の身には特に変わったことはありません。

    …もし、あの肉食べてたらどうなってたんでしょうね。

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