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犬鳴き峠
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長編8分
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当時学生だった私は、Aという友達とよく放課後に残っては、下らないダベリを繰り返してました。部活なんか入ってなかったので。まぁ、私もAも恐い話が好きなほうで、よく恐い話を仕入れてきては楽しんでいました。たまに女子も入ってきてキャーキャー言いながら、放課後の夕暮れの時を過ごしたものです。やがて受験を控えた最後の夏休みを迎える事になりました。私とAはいつものように雑談してましたが、なんとなく夏休みと受験の鬱さから、何かイベントを起こそうという話になり、犬鳴き峠に夜行ってみる、という事になりました。犬鳴き峠というのは、九州では非常に有名な心霊スポットで、危険だから立ち寄ってはいけない…と、大人なら誰もが言うくらいのヤバイところです。(現在は封鎖されてます) そこのトンネルをくぐると、必ず何かが起きます。正直、私は妙な高揚感を覚えましたが、同時にビビってました。ですが、若かったせいもあって恐いなんて言えません。まして親友のAにそんな姿は見せれなかった。夕暮れのくっきりしたシルエットの中で、Aの顔は真っ黒にみえた。田舎学生でしたので、私たちは免許なんて持ってませんでした。ですので、ローカル線に乗って現地の駅に集合でした。それからひたすら徒歩です。途中バスが出てるとの話でした。そして夏休みに入り、けだるい暑さの中で、その決行の日が近づくにつれ、私は何をしても気持ちが落ち着かなくなりました。それから何度も電話でAと話しをしましたが、悔しいことにAは全然平気のようでした。一度話の流れで、私が行くのをやめようっか?と言ったとき、Aのバカにした笑いが耳に響きました。それ以来、当日まで電話はしませんでした。私は恐いとかよりも、恐がる姿を見せてたまるか!という決意で固まりました。そして、その日が来ました。先日から振り始めた雨は、朝になっても止んでいませんでした。私は待ち合わせの夕刻まで、ベッドでごろごろしていました。やがて時間がくると、Aに中止にしようと言いたくて何度も受話器を握りましたが、言えずに出かけました。「なんでこんなバツゲームみたいなこと…」私は始めていく場所だったので、駅員に聞いたりしながら、なんとか現地の駅まで辿りつきました。すでに薄暗くなっています。雨は霧雨になり、傘をさしているのですが、体中がじっとりと濡れてきます。待ち合わせの駅に着いたのは、約束の時間より30分以上も早い時刻でした。人気のない駅でした。駅員も古い駅舎にはいって、背中を見せたままです。私は夏とはいえ雨に濡れてたので震えました。正直恐かったのだと思います。やがて約束の時間になりました。しかしAは来ません。私は次の電車で来るだろうと思い待ちました。しかしAは来ません。「あの野郎…」正直、私は嬉しかったです。帰れると思いました。しかし、すっぽかされた怒りは、若かったせいもあって強かったです。「あいつ、どついたろうか」そのとき、後ろから声がかかりました。怒り顔のAでした。「おまえ!いつまで待たせんだよ!現地集合だっていっただろう??」「え??現地の駅だったぞ?」「…お前、俺はずっと峠の麓におったとぞ?」「すまん」Aは独りで待たされたせいもあってか、凄くいらついていました。そして、早く行こうと先を歩き出しました。私は慌ててついていきました。Aはすでに一度通っただけあって、私を案内してくれました。しかし、Aもさすがに恐いらしく無口でした。顔も青ざめて見えました。やがて私たちは峠にさしかかりました。しかしそこからは急に砂利道になってました。私は薄暗い中、Aに必死についていきましたが、その先に鉄柵が張られていることに気付きました。私たちは、若さのせいにばかりするのはあれですが、鉄柵に掛かった鍵を、砂利道でひろった大き目の石をつかって壊しました。Aは体力がないので私の役目でした。時間はかかりましたが、なんとか鍵は壊れました。相当古い鍵だったようです。そこからは、両側から草が繁る砂利道の、しろっぽく浮かび上がる真中を、ひたすら上っていきました。雨のせいか、日はすぐに暮れました。私たちは懐中電灯をともして上りました。三十分くらい上ると、そこに闇をさらに黒くぬりつぶしたようなトンネルが見えました。中は真っ暗です。見たこともない暗さでした。私は背筋がゾゾゾゾゾゾ…と寒くなりました。「こ…これかよ……」Aも震える声で言いました。「さっきここで待ってた時は、まだここまで暗くなかったけど…」私たちは身をよせあって中を覗きました。まるで地獄につながっているかのようです。昼間なら向こう側の出口の明るさも見えたでしょうが、なにせ夜になっているので、本当に永遠につづくトンネルのようでした。「こ、ここを抜けると何かが起こるのか…」Aは余計無口になったまま、いつのまにか私の服を握り締めています。「お…おまえ先にいけよ……」Aは震える声で私に言いました。「ば、ばか…押すなよ」雨のせいで虫の声もない山の夜です。私たちの懐中電灯の明かりだけが灯っていました。しかし、その明かりも闇にとけこんでいます。私はもう駄目でした。恐いなんてもんじゃありません。正直泣きそうでした。私はAに言いました。「ごめん。俺、無理。もう帰ろう」しかし、Aは手を離しません。「ば、ばか!ここまで来て帰れるかよ」私はAに押され、少し前に進みました。「無理だって!俺、堪えれないよ」「お前が来ないから、ずっとここで待たされた身にもなれよ」「んなこと言ったって!俺は帰る!」「だめだ」Aは私の服が破けるくらいひっぱって、トンネルに入っていきます。私は必死でふんばりました。「やめいって!」「いいから来いよ!はやく!」Aはどんどん私をトンネルの奥にひっぱります。私はさすがに切れて、Aを振りまわす気持ちでひっぱり返しました。私のほうがAよりも体力があるからです。しかし、Aの力はいつもより強く、私はふりほどけませんでした。「大丈夫だって、そんな恐いことないよ。一緒に行こうよ」……その時、私はあることに気付きました。「お前、ここで待ってたんだよな?」「……」「ここに来る途中…鉄柵の鍵かかってたじゃないか…」「……」「だいたい、俺が待ち合わせ場所に着たのは30分も早かったのに、ずっと待ってたって…いつから待ってたんだよ?」そのとき、私をトンネルの奥にひっぱっているのが、Aだけではない事に気付きました。後ろから、横から、たくさんの手が私をトンネルにひっぱっているのです。悲鳴が喉から出ない私に、Aが振りむいて言いました。「早く死のうよ」後日談私は気を失ってたらしく、地元の人が山菜をとりに来た際、見つけられたそうです。私はひどい熱で、数日寝こみました。病院で、Aがその日、恐くて約束をすっぽかしていた事を知りました。それ以来、Aとは口を聞くことはありませんでした。
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