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絵馬
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長編17分
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オレが専門学校に通っていた頃の話。 そのころは専門学校生で、 学校でつるんでる仲間とよく心霊スポットに行ってた。 別に大好きって訳でもなくて、 特に行くとこもなくて、 ただドライブしてるだけもつまんないので、 適当な目的地として心霊スポットを選んでる、ってだけだった。 「うぉ~怖ぇ~」 とか、その場のノリで言ってはみるものの、 別に怖いなんて思ったことは一度もなかった。 そんなころ、 友達が車を買ったというので、 その新車でドライブに行く事になった。 「またKダム行く?」 「もう心霊スポットええよ~。 別に女の子おるわけじゃなし」 「行くとこないじゃん。 米軍基地でも行こうか?」 あらかた近場の心霊スポットは行き尽くしたオレたちは、 そんなこと話ながらドライブしてた。 「そういえば!」 と、友達が話はじめた。 「YってとこにS峰ってとこあるらしいんじゃけど、 そこなんか怖いらしいで」 「へぇ、どんないわくがあるん?」 聞くと、なんでもYって場所は、 縁結びの神様が祭られてる神社があるそうなんだが、 そこである女が好きな男への思いを願いつづけたが、ついぞ叶わず、 その神様を呪うという遺書を残して、身を投げたとこなんだそうな。 「ええじゃん!行こうや!」 「でも場所がいまいちようわからんわ。 Yは分かるけど、S峰って聞いた事ないよ」 「ええよ、コンビニで聞こ」 別に目的地につけずとも、 何か探すっていう目的でよかった。 オレら流の遊び方。 Yは少し遠かったけれども、 夜は道もすいててそんなに時間はかからなかった。 オレらは適当なコンビニを見つけて、 S峰を探すことにした。 友達2人は売り物の地図を広げて、 オレは店員に聞いてみた。 「すんません、ここらでS峰って知りません?」 「あぁ、S峰。ありますよ」 そういって、 店員は詳しい行き方を教えてくれた。 「そこって神社あります?」 「あぁ、T神社でしょ?今から行くんですか?」 「そうそう、なんか怖いらしいから・・・」 「怖いですよ。あそこは」 店員の口ぶりに興味をひかれた。 「え?店員さんもいったことあるの?」 「ええ、絵馬でしょ?」 「絵馬・・・?」 「ええ、絵馬の遺書」 「ナニそれ?絵馬に遺書が書いてあるんですか?」 「そうですよ、 右側のかけるとこの一番下の右から・・・ 3番目くらいかな?一番奥。 でも、もうさすがにないかな?」 「そこにあるの!?」 「ええ、オレは見たんですけどね。 ま、今から行くんでしょ。 もし見られなかったら、何が書いてあったか教えますよ。 大体覚えてるから。 帰りもここ通るんでしょ?」 「そんなん見て大丈夫なん?」 「はずしちゃダメらしいですよ。 オレはびびってはずせんかった。 できたら外してみて下さいよ」 またまた~、なんて店員と談笑していると、 「おい、場所わかった?」 と、友達が地図をしまって話しかけてきた。 「おう、店員さんが教えてくれたわ。 ついでにおもろい話も」 「ホンマ?地図載ってなかったーや。 分かったんなら行こうや」 「OK!OK!おもろい話したるけーの!」 ただ出るのは悪かったので、 缶コーヒーを一本買って店を後にした。 オレはさっき店員から聞いた話を、 走る車の中でコーヒーを飲みながら友達に話した。 「それマジで?やばいんじゃないん?」 「まぁはずすまーや。 見るだけならええんと」 「外したらどうなるか知りたいわ。 ○○ちゃん外してみてや」 「お前店員と同じ事言よるわ」 そんな話をしながら、 店員に教えてもらった通り車を走らせた。 「お、アレじゃないん?」 神社らしきものが見えてきた。 そこは結構山を上ったとこで、 神社はちょうど頂上付近に建ってるって感じだった。 その辺り一帯がたぶんS峰なんだと思う。 オレ達は車を停め、神社に入ったが、 神社は思ったより奇麗で、 なんだか拍子抜けしてしまった。 「なんか、心霊スポットって感じでもないのー」 「おぉ、これならW(近所の地名)の神社のがよっぽど怖いで」 「まぁ、絵馬探してみようや」 絵馬がかけてある掲示板みたいなものはすぐに見つかった。 幅2メートル弱くらいのものが2つならんでいた。 「右側の一番下の右から2、3番目・・・」 絵馬は、 掲示板全体にギッシリといった感じでかけられていたが、 店員が言った箇所に目をやると、 ちょっとおかしい。 「あった?」 「いや、ないけど・・・何コレ?」 右側の掲示板、一番下の一番右。 絵馬をかける釘の根元に、 なんだか郵便ポストのような、ロッカーのような、 いや、まるでビルの配線やらが入ってて、 丸いとこを押して取手を出して開くやつみたいな。 (わかってもらえるか・・・) そんなものが取り付けられていて、 蓋に開いた小さな穴を通って、 釘は打ち付けられていた。 その蓋の両端は、 耳みたいに取手が出してあって、 それぞれ南京錠がしてあった。 「・・・?」 「こん中に遺書が入っとるとか・・・?」 「・・・!そうじゃ、きっとそうじゃ!うぉ、これ怖い」 中に目的のそれが入っていると確信して、 妙にテンションがあがったオレらは、 そのロッカーみたいな、箱をはずしてみようとなった。 箱は掲示板に釘で打ち付けられているだけだったので、 みんなで引っ張ればはずれそうな気がした。 最初に、外に掛かってる絵馬を全部はずして、 車からもってきたマイナスドライバーで、 箱の打ち付けられている部分を持ち上げて、 指が入るくらいの隙間になってから、 みんなで引っ張った。 バキッ!と音がして箱が外れた。 「うぉ!外れた!」 中には、明らかに他のものより古い、 黒ずんだ絵馬が入っていた。 みんな最初は黙ってみていたが、 オレは絵馬に顔を近づけよく見てみた。 何も書いてない・・・ 裏返してみると、 字らしきものが書いてある・・・。 みんなも顔を近づけた。 「おい、火ぃ点けて。見えんわ」 友達がライターの火で絵馬を灯す。 『大好きなYさん 大好きなYさん 祈ったのに 離れて行った 裏切られた 許さない』 「!!!」 みんな絶句した・・・ これは怖い! 「うぉ~~!怖ぇ~~~~!!!!」 テンションが上がったオレは、 調子にのってオーバーリアクションをしてしまった。 手に持っていた絵馬がオレが振った手に引っかかって、 ポーンと飛んで行った。 「あっ!」 カツンと音を立てて落ちる絵馬。 オレは急いで拾い、 すぐにもとの場所にかけた。 「・・・やべ」 「・・・さすが○○ちゃん」 「いや、ホンマにわざとじゃないんよ。 ちょっと調子乗ってもうて・・・」 友達に言い訳をしてもしょうがないのだが、 なんだか怖くてそんなことを言った。 「ヤバいんかね?」 「・・・ま、迷信じゃろ。 なんもないよ、こんなもん」 ちょっとビビりはじめたオレに気を使ってくれる友達に、 ちょっとホッとしたその瞬間、 「こりゃ~~~~~~~~~~~!!!!!」 ものすごい怒鳴り声! オレは腰を抜かして、 そこにへたり込んでしまった。 「また冷やかしかと思ったら、 まさか外しおるとは・・・ こんの馬鹿もんがぁ!!!」 いきなり怒鳴ったオッサンが、 神社の人だってのはすぐにわかった。 いい歳こいて、 こんなところ見つかるなんて情けない・・・。 警察呼ばれたらヤバイかも・・・。 「すんません・・・」X3 みんな謝るフリして、 逃げるタイミングを目くばせして計ってた。 するとオッサンは、 「外したか?」 「あ・・・あの・・・はい」 「箱外したんは見りゃ分かるわ!! 絵馬じゃ!!絵馬は外しとらんじゃろうのぉ!!!」 「あの・・・ちょっとだけ・・・ほんのちょっと。 すぐに戻しましたよ」 「・・・」 オッサンは押し黙って、 フゥーッとため息をついた。 「だれなら?外したんは」 「オレ・・・です・・・」 「ちょっと来い」 「いや、ホンマにすいません。出来心で。 箱も直しますから・・・ごめんなさい・・・・」 「えぇけ~、来い言うとろうが!」 オッサンはいかにも神社の人って格好をしているのに、 まくしたてる様子はまるでヤクザだった。 オレは仕方なく、 言うがままついて行った。 その時、 オレを置いて逃げようかどうしようか迷っていた友達の様子が、 とても憎らしかった。 結局友達2人もついてきて、 オレらは神社の裏手の建物の中に連れてこられた。 「さてと」 オッサンは正座しているオレの前にしゃなりと座って、 じっとオレの目を見た。 顔が怖くて目をそらしたかったが、 そらしてはいけないような気がして、 オレもオッサンの目をじっと見ていた。 しばらくして、 「あんたぁ、男前じゃの」 「は?」 「彼女はおるんかい」 「え?・・・ええ、一応」 「好きなんかいの」 「???・・・ええ、まぁ・・・」 訳のわからない質問に困惑したが、 なんとなく心配になって聞き返した。 「あの・・・彼女がなんかまずいことにでもなるんですか?」 「ん~、もしかしたら調子壊すかもしれん」 「えぇ?なんで?」 「あんたぁ、あそこまでしたんなら、 あの絵馬が何か知っとるんじゃろ?」 「えぇ、噂で・・・」 「あの絵馬があそこにかかっとるうちはの、女も悪さはせん。 決して安らかな訳ではないがの。 外すととたんに悪さをするんじゃ。 自殺したもんもおる」 「・・・」 オレは絶句した。 「オレらもヤバいんですか?」 後ろの友達2人が聞くと、 「ちょっと外れたくらいなら、あんたらは大丈夫じゃ。 でもあんたは、ちょっと悪さされるかもしれん。 あんたぁ男前なけー、もしかすると女を狙われるかもしれん」 「ちょ、ちょっと、どうすればいいんですか!?」 幽霊なんか信じない。 そう信じていたオレは、 もう完全に霊の存在を肯定していた。 「あんたに影が見えん。 女の所に飛んだのかもしれん。 もしかしたらなんもないかもしれん。 女が調子悪くなったら、病院行く前にここに来い」 オッサンは棚からメモ用紙を取り出し、 電話番号を書いてオレにくれた。 「ええか?次悪さしたら警察突き出すけんの?わったか!?」 「ハイ!」X3 いい返事をして頭を下げて、 帰ろうとするオレらを呼び止めて、 オッサンは工具一式を持ってきた。 「直して行け」 オレたちは外した箱の修理をやらされた。 まぁ当然と言えば当然なんだが・・・。 捲れた板をボンドでひっつけている途中、 目の前で揺れる古びた絵馬が怖くて、 マジで帰りたかった。 絵馬に箱をそっと被せて、 釘を打ち直した。 「こりゃ、どうにかせんとのぅ・・・」 オッサンが後でつぶやいた。 その日は、 なんだか大変なことをしたと思ったが、 なんか実感がなかった。 帰りの車の中でも、 「いや~○○ちゃんはやる思うたよ。さすがじゃーや。 『うぉ、怖ぇ~~、ポーン!』じゃもんの~、オレできんわ」 「いや、マジでびびってもうたよ。 でも正直、オッサンのが怖かったけど」 「ホンマよ。なんやあれ、ヤクザか思うたーや」 緊張感などまるでなく、 解放された安堵で逆にハイテンションだった。 「☆ちゃん(オレの彼女)も大丈夫よ。 あんなぁ脅かすために言うたんじゃーや」 オレも、まぁないだろう・・・と思っていた。 帰りに行きによったコンビニによって、 店員に絵馬を外したと報告して帰った。 店員はどうなったか聞いてきたが、 何もなかったと言うと、 なぁ~んだと言った感じで笑っていた。 次の日、一応心配だったオレは、 彼女に電話をして体調を確認した。 そんなことを聞いてくるオレを彼女は不思議に思って、 何かあったのかと聞いてきたが、 元気そうだったので、 次の日の休日に会う約束をして電話を切った。 その晩、彼女から電話があった。 「○○ちゃん?ごめん明日会えんかも」 「え?どした?」 ドキッとした。 「なんか風邪ひいたみたい。 熱あるし、寒気もする・・・。 治ったらいいんじゃけど、なんかひどくなりそうで・・・。 もしダメじゃったらごめんね」 オレは急に怖くなった。 「そう・・・あったかくして、今日はもう寝ーや」 電話を切って、 オレはすぐにオッサンにもらったメモがちゃんとあるか確認した。 電話番号を携帯のメモリーに入れて、 メモも財布に入れておいた。 もし明日、 彼女の体調がやばかったら電話をしよう・・・。 次の日、 昼前に起きて彼女に電話を入れてみた。 何回かかけたが出ない。 しばらく待ってまたかけた。 さらに待ってまたかけた。 全く電話にでない彼女が心配になって、 バイクで彼女の家に行った。 彼女は実家暮らしで、 実家の番号は知らなかった。 彼女の家について、 チャイムを押そうとしたその時、 玄関がガチャリと開いて、 彼女を背負ったお父さんが出てきた。 「☆っ!・・・!」 お父さんはオレを見て、 「☆の友達? 今はちょっと・・・体調が悪いんじゃ。 病院につれて行くけー」 背負われている彼女は、 意識があるのかないのかもよくわからなくて、 口をぱくぱくさせてやっと呼吸をしている、 といった感じだった。 (これは電話をしないと・・・) すぐに携帯を取り出して、 神社の番号に電話をかけた。 玄関から半ベソのお母さんが出てきて、 お父さんにかけより、 「あなた・・・救急車呼ぼう!」 「車の方が早い!」 なんて言い争いをしていた。 それを聞いてオレはパニックになりかけてた。 『T神社です。』 「あの、○○と申します。 神主さんを・・・Jさん(オッサン)を・・・!」 『は、はぁ、少々お待ちを』 保留音が2~3秒流れすぐにオッサンが出た、 『もしもし、大丈夫か?』 「彼女が・・・☆が・・・!!」 『落ち着け!すぐに来れるか!』 「はい、すぐに・・・すぐに行くから・・・助けて下さい!」 『すぐに来い!車か?気をつけぇ。 それと、これは携帯電話か?』 「そうです・・・」 『じゃあ切るな! このまま彼女の耳に押し当てて、 わしの声が聞こえるようにせぇ!』 「わ、わかりました」 携帯を自分の耳からはなしたオレに、 両親はすぐ詰め寄ってきた。 「お、おい、今の話はなんや!どういうことや!」 「車で話します! だから・・・車貸して下さい!スグに!」 気づくとオレは、 ベソかいて涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだった。 「病院に行くんじゃないんか?訳を話せ!」 「神社に行くんです! オレが幽霊にちょっかい出したんです! そのせいで彼女がこうなってるんです! お祓いしてもらうんじゃ!スグ行かんと!!」 オレはまくしたてた。 オレのすごいけんまくに、 両親も押され気味で困惑していた。 さすがに、 いきなり幽霊とか言われりゃ困惑するだろうが・・・。 「何言ってるの・・・ 病院行かなきゃ・・・!!あなた!!」 迷うお父さんの背中から、 ☆がふと目を開けてオレを見て言った。 「Yさん・・・」 絵馬にあった名前・・・ 大好きなYさん・・・ オレは血の気がひいた。 両親を殴り倒して車を奪ってでも神社に行かなきゃ。 「行こう」 急にお父さんが娘を車にのせた。 「君が運転してくれ」 オレはすぐに車に乗り込んだ。 お母さんは、 「あなた!本気!?どういうこと!?」 と錯乱気味だ。 お母さんも乗り込んできて、 運転席のオレにつかみかかるが、 オレは構うもんかと車を発車させた。 そして、 もめている両親の怒号を打ち消すような大声で叫んだ。 「この携帯電話を☆の耳に当ててくれ!!」 キーキー騒ぎ立てる母親を静止して、 お父さんは携帯電話を彼女の耳にあてた。 すると彼女は苦しみ出した様子で、 お母さんはもう狂ったように、 「やめてー!やめてー!」 と叫んでいた。 「これは、なんや!なんでこんなことするんや!」 「神社の神主さんがそうしろって! オレもわかりません・・・!」 車の中はしばらく騒々しかったが、 やがてお母さんも落ち着いてきて、 (というか、疲れてきたというか) お父さんは詳細を把握しようと、オレに経緯を尋ねた。 オレは神社のこと、 女と絵馬のこと、 そしてあの夜のことを話した。 両親は信じがたかったろうが、 特に反論もせず、 それからはしきりに彼女の名前を呼んで励ましていた。 神社につくと、 オレは彼女の耳から携帯を取り、 自分の耳にあてた。 電話からは、 オッサンのお経のような、呪文のような、 そんな声が聞こえる。 「つきました!」 『~~~・・・!そうか! すぐに前お前が入った建物まで運べ!』 オレとお父さんで、 急いで彼女を神社の裏手の建物に運んだ。 オッサンは、 なんか神々しい格好をしていて頼もしかった。 「彼女をここに!」 言われた通り、 彼女をオッサンの前の布がひかれた場所に寝かせる。 オッサンはお経のような、呪文のような、歌のような、 そんな言葉を発しながら、 彼女の身体に手をかざしたりしはじめた。 たまに普通の日本語っぽい言葉も聞こえた。 そのうち彼女に変化があった。 「うぅ~~、うぉおお~~」 うなり声があがったと思うと、 彼女は目を見開いて 「またかー!またかー!おのれー!おのれー!」 と、すごい形相で叫び出した。 身体は反り返り、 たまにドスンと床に落ち、すぐ反り返る。 お母さんは、 その様子を見て気を失ってしまった。 オレも、もう身体がありえないくらい震えていた。 「違う!違うぞ!この男は違うのだー!」 「ヒャーッ!ヒャーッ!Y~~~~~!Y~~~~~!」 卒倒寸前のオレをオッサンはいきなり捕まえて、 彼女の目の前に突き出した。 「よく見るがいい!おまえの愛した男か!違うであろう!」 すごい彼女の形相。 いや、これはあの女の顔なのか。 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、 違うんです、ごめんなさい・・・」 オレは絵馬を外したことを、 心のそこから謝った。 「~~~~~~~~~~」 声にならない声で唸っている彼女・・・ そのうちそれは、 すすり泣きのようになっていった。 オッサンはそれをみはからったように、 彼女の横にそっとしゃがみこみ、 今迄とはくらべものにならないくらい小さな声で語りかけていた。 オレは腰が抜けて放心状態だった。 横では彼女のお父さんもへたり込んでいた。 やがて、彼女はだんだん落ち着いた様子になり、 オッサンは最後の仕上げとでもいうように、立ち上がり、 またお経のようなものを呼んで、 オレらの前にしゃなりと正座した。 「もう、大丈夫です」 それを聞いてオレは、涙がボロボロ出た。 声をあげて泣きじゃくってしまった。 お父さんとオッサンがいろいろ話をしていたようだが、 よく聞いていない。 彼女は気を失ったままで、 「意識が戻ってからでいいので、病院に行くように」 と言われたらしい。 オッサンは帰り際にオレに話した。 「正直、あの程度でここまでつかれるとは思わんかった。 あんたぁ、よっぼど気に入られたんじゃのぉ。 もう祓ったから心配いらん。 が、もう彼女には会うな。 未練はそうとうなもんじゃ。 またあんたと一緒におればああなるかも知らん。 もう会うな。お互いの為じゃ。 気の毒じゃがそうせぇ」 彼女のことは好きだったので、 ショックだったが、 やむを得ないと思った。 オッサンは続けて、 「できればの・・・引っ越せ。 この土地を離れぇ。 それが一番安全じゃ。 もとはと言えば、 あんたの軽はずみな行動が原因じゃ。 反省せぇ」 引っ越しはちょっと・・・と思ったが、 やっぱりやむを得ないと思った。 学校もやめなきゃ・・・。 その後、彼女の両親に送ってもらった。 お父さんは、 「こうなったのは君のせいだが、 助けてくれたのも君だから礼を言う」 と言ってくれた。 お母さんはずっと黙ってた。 オレは両親に、もう彼女とは別れ、 自分もこの土地を後にし、戻らないと約束した。 お別れも言えないなんて、 つらくて涙が出た。 その後、 オレは学校をやめて、 地元に戻り就職した。 その頃つるんでいた友達 (心霊スポットを一緒に回った友達2人も) もちょくちょく遊びに来てくれたが、 誰も彼女のことや、 あの夜の後日談に触れるやつはいなかった。
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