【洒落怖】老人と少年

  • 高校三年の夏休み、受験勉強にも飽いた私は、ザックにわずかな着替えと寝袋を突っ込んで千葉の方に、2~3日のつもりで旅行に出掛けました旅行といっても、ただなんとなく海が見たかっただけの、大して金も持たず、鈍行列車で行くささやかな旅でしたとりあえずの目的地は犬吠埼、九十九里浜。

    銚子を起点に国道(県道なのかもしれない)に出て、確か左手に海が見えたのですから、多分、海岸線に沿ってを南下して行ったのだと思います。行くにつれ人家もまばらな田舎の風景となってきましたそれでも海水浴客の車が時折私を追い越していきましたそこが何という浜だったのか、随分歩いたようにも思いましたが、実際には2、3駅分の距離だったでしょう松林の向こうに砂浜が見え、人々が泳ぐのが見えました日が長い夏とはいっても、鈍行に歩きの旅、松林の中ではもうヒグラシが鳴いていました私は、その林の中を今夜のねぐらと決めました林の中に入り、ビニールシートを敷き、さらにその上に寝袋を置きました昼間の疲れで私はすぐに眠りに落ちました目が覚めたのは夜の10時くらいだったと思いますとたん腹がへってきますほんとは海の家にでも出ていって、そこでラーメンでも食べるつもりでしたが、こんな時間ではもうどこも開いてはいないでしょうときおり砂浜で花火をあげる音が微かに、風に乗って聞こえていました。

    波の音も合間って何やら無性に人恋しくなるような淋しい音でした私は駅で菓子パンでも買っておけばよかったと、ぼんやり寝袋の上に座っていましたそんな所へ、通りの方から夜泣き蕎麦の喇叭の音が聞こえてきました。シーズンのこの時期、観光客目当てに流しているのでしょう渡りに船とばかりに私は、ザックと寝袋をそこに置いたまま、貴重品だけを持って通りに出ていきましたそこで食べたラーメン、美味しかったです普通の具に、その土地らしくワカメが多めにのってて、貝などを出汁につかっているのでしょういまだに憶えてますそれを食べ終わり、私は満足して寝床にもどりました三メートル程近付いた時、私はドキッとしました私の寝袋の上に、誰かが座っていました驚きながらも懐中電灯を向けますと、そこには一人の男の子が座っていましたこの真夏に青いトックリのセーターを着ていましたそして、さらに周りを照らそうと一瞬それから灯りを外し、再びそこに灯りを向けたとき、その子の姿はもうありませんでしたその夜は、まんじりともせず明け方を迎えましたそれでも、いいかげん明るくなってから、私は寝てしまいました。

    次に起きたときにはもう正午を回っていました昨晩のような気味の悪い経験をした私は予定を切り上げて、早々に家に帰ることにしました。駅に着き、たしか銚子でしたか、当時その駅には待合室がありました海水浴場といっても当時は列車の本数は少ないです私は次の列車が来るまで、その待合室で時間を潰す事となりましたその時そこにいたのは私だけでしたいつの間に入ってきたのか、向かいの席に、七十は越していたんじゃないでしょうか、一人、老人が座っていましたその老人は私を見てニッと笑い、私の隣に席を移しましたそして、私に向かい、煙草をねだりました私は高校生でしたが、しっかり持っていました。

    そして老人に一本差し出し火を点けてやりましたやがて老人は、うまそうに煙を吐き出すとオトコはなココを使えばウマくいくんじゃ、ココをツカワネバそう言って私の股間に手を置いたのです余りに吃驚して、私は手を払うこともできませんでしたそして、その老人は容易ならざる事を、まるで世間話でもするように淡々と話し始めたのです。彼の話はこうですご推察の通り彼は昔から男色家で、特に少年や若い子が好みだそうです確かに当時の私は色白で華奢な、街を歩いていても、よく女の子と間違われましたそれは四十年近く前の事だったそうです冬の夕暮れ、彼は海岸で砂と戯れている少年に出会ったそうです当時からそんな趣味の彼は、その子を松林に誘い込み、いろいろと悪戯をしたそうで帰る段になって、彼は事のばれるのが恐ろしくなって、その子の細い首に手を掛けたそうです近くの漁師小屋からスコップを持ち出して、死体は松の木の根元に埋めたそうです。

    普段ならホラ話として片付けるような話ですが、昨夜の事があったばかり、しかも話を聞いていると、どうも昨晩寝たあの辺りのような気が当時、警察が動いたのか、遺体は発見されたのか、そもそも事件にすらなったのか老人はその後も何変わることなく今日まで日々を送ったそうです私は恐ろしくなり、その場を立ち上がり、なけなしの金を出して、待合いのタクシーをつかまえて一つ先の駅まで乗りましたタクシーが出るとき、待合室を見ると、老人は無表情にじっとこちらを見ていました私は時々思います少年は今もあの松林の中に埋まっているのだろうか今はもう生きてはいないだろうあの老人、実は今も旅をする者を捕まえては、あの話をしているのじゃないだろうか、と。

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