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黒い街宣車
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中編4分
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俺が中学1年の頃の話。 その頃俺は、某県某市(西の方ね)の団地の4階に、 家族4人(両親と弟)で住んでいました。 団地は街の隅っこの山の上にあったんだけど、 この団地が今考えても結構不気味でさ。 ボロいわ、汚いわ、入居者もいないのに棟数だけはやたら多いわで、 ぱっと見で廃墟みたい。 敷地が無駄に広い上に、すぐ後ろは山、前は寂しい住宅街だったから、 夜中になったらもうゴーストタウン同然なんだよ。 夏休み中も、近所のガキが肝試しに使うような場所。 エヴァンゲリオンの綾波レイの住んでいる所みたい、 って言ったら分かる人いるかも。いないか。 まあそんな所だから、廃棟の屋上に人影が見えるとか、人魂が漂っているとか、 そういう怪談話には事欠かなかったよ。 そういうの、俺は結局一度も見えなかったけど。 で、俺が変な体験したのは11月の頭。今よりちょっと早い時期だな。 その日俺は風邪をひいて、学校を休んだ。 熱なんてほとんど無かったはずなんだが、とにかく気分が悪くて、 何を食ってもゲロ、何を飲んでもゲロ、って状態だったと思う。 それと、耳鳴りがヤバかった。 テレビとかで放送禁止用語に被せる「ピー」ってSEがあるけど、 あれに良く似たヤツが、耳の奥でちっちゃく鳴り続けている感じ。 後にも先にもあんな耳鳴りは初めてだったから、良く覚えている。 平日だったから親父とおふくろは仕事、弟は小学校へ行き、 一人っきりになった俺も、午前中は黙って寝ていたんだけど…。 吐き気と耳鳴り以外に体の変調も無かったし、 昼過ぎにはもう退屈して起きちまったのね。 で、テレビみたり漫画読んだりゲームしたりしながら、 時間をつぶしていたんだ。 変な出来事が起きたのは、4時40分ジャストくらい。 時間は多分正確だと思う。 弟がなかなか帰ってこなくて、 「遅ぇなぁ」 って窓際の時計を見上げた記憶があるから。 だから、外の天気もはっきり覚えている。 気持ち悪いくらい西陽が眩しかった。 独りきりの夕方って、夜中なんかよりもよっぽど静かなんだよな。 昔の人が逢魔ヶ時って呼んでいたのも分かる気がする… 不気味な空気が漂っているというか。 あの時も、早く弟に帰ってきて欲しかったんだと思う。 そん時俺は、セガサターンのバーチャファイターに興じていたんだけど、 突然テレビが、音飛びと同時にノイズまみれになったんだ。 ノイズって普通、画面全体をザァーって覆うと思うんだけど、 そん時のノイズはなんか変で、 モニターの真ん中から発生して同心円状に広がっていく…っていうのかな。 うまい事言えないんだけど、 池に石を投げ込んだら波紋が広がる、って感じに似ていた。 ちょっとしたらノイズは消えるんだけど、 しばらくしてまた真ん中が歪む⇒ノイズが外側へ向けて広がっていく、 ってのが何度か続いた。 最初はテレビの故障かなとも思ったんだけど、 あんまし規則的に続くもんだから不気味になってきて。 それでテレビ消そうと思ったら、俺が触るより早く突然電源が落ちた。 もうこの時点で泣きそうになった(と思う)んだけど、 電源が落ちた途端に耳鳴りの音が急にデカくなって、 思い出して勝手に鳥肌立ってきたんだけど… 耳鳴りの音質が明らかに変わったんだよ。 「ピー」っていう高音から、「ブーン」っていう低音に。 ともかく、子供心にもこりゃヤバいって気がして、 テレビから離れようとしたんだ。 そん時、窓の下に何か黒っぽい塊が見えてさ。 そこは団地と団地の間に挟まれた中庭みたいな所で、 小さな公園になっているんだけど、 公園の隅っこに1台、真っ黒でバカでかい車が止まっているんだよ。 街宣車にそっくりだったのをハッキリ覚えている。 あの軍歌とかゴジラ流しながら爆走しているヤツね。 ただ、ボディペイントとか日の丸なんかは全く何もなくて、ただ真っ黒なだけ。 それが西陽の中で、捨てられたように佇んでいるんだ。 で、魅入られたみたいに眺めていると、 暫くしてスピーカーから音が流れ出してきたんだ。 流れてきたのは軍歌でもゴジラでも無く、陰気な声だった。 『チチ(父?)は…○○○、ハハ(母?)は…○○○(○は意味不明)』 みたいな事をブツブツ呟いていた。 何度もチチとハハって言葉が聞こえたから、 同じフレーズを繰り返していたのかもしれないけれど、 なんせ声は小さいし、低くこもっているし、意味は全く分からなかった。 声と連動して耳鳴りも段々大きくなってきて、唸り声みたいになってくるし。 その後なんだけど、 耐えられなくなった俺が泣きながら布団に頭突っこんで、 耳塞いで「あー」って怒鳴って、耳鳴りの音を掻き消しながら暫く耐えていたら、 やっと弟が帰ってきた。 弟に布団を引っぺがされた瞬間は、心臓が止まるかと思ったけど。 で、気付いたら耳鳴りは止んでいて、 窓の外を見ても街宣車の姿はどこにも無かった。 弟に聞いてみても、ありがちなオチだけど、 そんな声も車も知らないって言われた。 以上が俺の経験した中身です。 書いたの見てみると、あんまし怖くないな。 でも、俺個人としてはほんのりどころか、 メチャメチャ怖い出来事でした。 結局あの車が何だったのか分からずじまいですが、 今でも街宣車と夕焼けは苦手です。 団地にはもう誰も住んでいませんが、物自体はまだあります。
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