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神父と女幽霊
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高校がミッションスクールだったんで、 聖書の授業とかあったワケです。 で、北斗の次男にソックリなんで 「トキ様」と呼ばれたイケ面神父と、 上品な関西訛りのタヌキ顔神父の二人が担当しておられた。 トキ様の前じゃ猫かぶってる女子高生どもだが、 タヌキ神父にはけっこう生意気言ってました。 それで授業中、 三体合体もとい三位一体とか魂の不滅がどうとかやってる時に 「で、神父様は霊魂をじっさい見られたことあるんですかあ?」 などとブシツケな質問かましたんですね、私ら。 すると 「ええありますね、わたくしがまだ神学生の時のできごとです」 おお?いい方向に予想外の反応! 私らは身をのりだした。 「当時わたくしは学校の寮に入っておりましたが、 その日は大晦日でわたくしと寮長様(この方も神父)を除いては みなさん帰省しておられました。 わたくしは早々に床についたのですが、 夜半、何かの気配を感じめざめました。 …枕元に若い女性が立っておられました。 髪をふりみだし服は血にまみれて、 あきらかに生きた人間とは思えません。 そうしてわたくしをじっと見おろしているのです。 このような出来事は生まれて初めてだったわたくしは、 もうどうしてよいかわからず、 『マリア様、お助けください、マリア様!』 とただただ祈るばかりでした。(←大阪人の最終兵器はやっぱ”オカン”なのだなあと思った) すると祈りが通じたのか、 すぅー…とその姿は薄れて消えました。 もちろんその後眠るなどとてもできず、 寮長様の部屋に泡をくって駆け込みました。 わたくしの話を寮長様は黙って聞いておられましたが、 深くうなずくとこうおっしゃいました。 『私もその方にお会いしたことがあります』 『十年ほど昔の、今日と同じ大晦日の深夜でした。 自室で書き物をしていた私は、 寮の玄関がギイと開く音を耳にしてはっとしました。 私ひとりという気のゆるみから、 夜の見まわりと施錠をおろそかにしていたのです。 このような時間、ノックもせず入ってくるような人が 教会の方や寮生ではありますまい。 おそらく良からぬ心得の者でしょう。 しかし通報しようにも電話は玄関の脇です。 ほぞをかむ思いで部屋の扉ごしに廊下の物音をうかがっておりましたが、 盗人にしてはその様子があまりに異常であることに気づいたのです。 ガリ、ガリリ ぜぇぜぇ ひゅうひゅう ガリッ ざりり ひゅうううう 壁を掻く音。 荒い呼吸音。 引きずるような足音。 盗人などではありません。 そもそもこれは人なのでしょうか? 野犬かとも考えたのですが、 ときおり聞こえる呻き声はあきらかに獣とはちがっていました。 その、得体の知れない物音はしだいにこちらへと近づいてきます。 私は、逃げることも声を出すこともできずに、 じりじりと扉からあとずさりました。 いま、この寮で灯りがついているのは私の部屋だけです。 戸の隙間からもれる光めざして 廊下の「あれ」はやってきているのです。 (私ら「…あの、神父様、寮の部屋に鍵は」 「ついてませんでした」) すこしづつ、すこしづつ、爪音とうめき声、 ひきずる足音が私の部屋、いえ私めざしてやってきます。 とうとう、それは扉一枚へだてたむこうにたどりつきました。 がりがりがりがり ガリッ、ガガガ がりッ 無茶苦茶に引っかく音がします。 ドアノブに気づかないのでしょうか? 願わくばそのまま気づかないでくれ! あきらめてどこかへいってくれ! 音がやみました。 あきらめた…? がちり ノブがゆっくりと廻りました』 『扉が開いたその時、お恥ずかしいことですが、 私は腰を抜かして座り込んでしまいました。 凄まじい形相の、 服を血でまだらに染めた女性がそこに立っていたのです。 彼女は口や鼻から血を垂らしながら こちらに2、3歩ふらふらとよろめいて、倒れました。 そこでやっと私は、 自分が大変なあやまちをおかしてしまった事に気がつきました。 その方は生きておられたのです。 大晦日の深夜、 誰もいない神学校の構内で 彼女は農薬をあおって自殺をはかったのです。 しかし、あまりの苦しさに、 唯一灯りのついていた建物…学生寮に助けを求めたのです。 薬でのどが灼け、声も出せず、這いずるようにして。 死装束のつもりだったであろう白いワンピースは 吐いた血と泥で汚れ、裂け、 苦悶のあまりあちこちをかきむしった爪は はがれかかっておりました。 すぐさま救急車をよびました。 しかし、手遅れでした。 助けられたかも知れないのに、 私が臆病風に吹かれてしまったばかりに… 祈りましょう。 彼女のさまよえる魂の救済を。 そしてわたしたちの心の弱さの克服を』
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