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目にやさしいダークモード
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中編4分
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チャットにハマっていた頃の話だ。 まだ、ネットの普及率が30%を割っていて、 接続料金は従量制というもの。 使った分だけ通信料が跳ね上がるわけ。 時間を気にせずチャットが出来る方法は 23時から朝8時まで一定料金でつなぎ放題のサービス「テレホーダイ」。 チャットにハマった=夜型人間になったようなもの。 徹夜も珍しくなかった。 「寝落ち」なんていうのも、あの時代に、 正に途中で寝てしまってネットがダウンする状態から生まれたのだから。 現在から考えれば、 何という不便さだろう。 しかも、当然、PCでの通信であって、 あの時代のPCのスペックを考えれば、 最早、不便を通り越して、 苦労と呼んでいいかもしれない。 それほどの劣悪環境でありながら、 いや、だからこそ、熱狂したのだろう。 とにかく、 23時が待ち遠しい時代だった。 そんなある日、 例によって23時からのチャット三昧を楽しみ、 うつらうつらしてきたので、 寝落ちの挨拶をして、寝ることにした。 夜中の3時はまわっていたはず。 当時、 自分の部屋のほぼ中央ロフトベッドを置き、 三方向をカーテンで仕切って、 ベッドの下の位置にPCデスクを設置していた。 ちょっとした秘密基地気分のチャット部屋だ。 ベッドと窓の間の壁際には古いピアノがあった。 通常、寝るときには、 ロフトベッドに上がっていたのだが、 この時ばかりは流石にフラフラで、 ベッドから布団類を引きずり降ろし、 カーペットの上に敷いて寝ることにした。 狭いスペースだったが、 ピアノに足を向ければかろうじて身体を伸ばすことが出来た。 横になると強烈な眠気が襲ってきて、 あっという間に眠りに落ちた。 仕事に出掛けるまでに5時間ほどは眠れるはずだった。 ところが、 連日のチャット三昧に疲れも蓄積していたのだろう。 思いの外、眠りが浅く、 ふと目が覚めてしまったので、 トイレに行こうとした。 身体を起こそうとするが、 重い空気がそれを阻む。 体が動かない。 「ガチャン」と身体に鍵を掛けられたような感覚。 これが聞くところの「金縛り」というものか? 確認する間もなく、 「あれ」がやってきた。 足先から、凄ましいスピードで、 生き物らしき何かが、這い上がってくる。 腿、腹を通り過ぎ、 首の辺りをワシャワシャとまさぐっている。 暗いし、目も開けてなかったが、 それが、女性の右腕であり、肌の色は浅黒く、 鋭利な刃物でスパッと斬られたような腕先だけだとわかった。 訳も分からず、 弄られていた時間は、 1分間にも満たないだろう。 ふと、空気が軽くなり、腕の気配も消えた。 それから、どうして朝を迎えたか覚えていない。 だが夢にしては生々しすぎるし、 夢にしては記憶がはっきりしすぎている。 あの腕の感触。 しばらく布団で長考したが、 明るくなってきたので、 起きることにした。 起き上がると、目の前にピアノがあり、 ピアノの上には、乱雑に、ぬいぐるみやら置物やらが置かれている。 ふと、あるものと目が合い、 瞬時にすべてに合点がいった。 腕の正体がわかったのだ。 「ごめんね、気づかなくて」 と呟き、それを抱き上げた。 それは市販の人形(リカちゃん人形のような)の頭、手足を外して、 ウィスキーの瓶を胴体にして、貼り付けた、 ママの手作り人形(多分バザーのようなところで買った?)だった。 浅黒い、南国の少女的な姿の人形だ。 その人形の右腕が、胴体から外れ、 ぶら下っていたのである。 昨晩の「腕の訴え」は、 このことだったのだ。 右腕を直してくれという事。 不思議と怖さもなく、 ただもう人形が気の毒で、 今まで気づかなかった自分が悪かったと反省した。 いつもなら、気にも留めない場所にある、 気にも留めない人形と意思疎通が出来たという夢のような本当の話である。 早速、接着剤で腕を付け直したのは、言うまでもない。 ただ気掛かりなのは その後、何度か引越ししたのだが、 その人形を捨てたりした覚えはないが、 引っ越しの荷造りの際に見掛けた覚えもない。 またしても、 すっかり忘れてしまっていたということ。 家の中のどこかにあるのだろうか? また「私を忘れないで」と訴えてくるかもと思うと、 背筋が凍る思いだ。 ・「超」怖い話 怪牢 「超」怖い話シリーズ (竹書房怪談文庫)
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