【洒落怖】チヨニキイシ

  • 長野の某市の山間の村に住んでいた。

    ダムの近くまで降りて舗装の汚い凸凹の坂道で夕暮れまで遊んだり、
    遠くに見える市の明かりを眺めたり、
    お墓の近くでぼーっと座っていたこともある。

    小6の夏休み、
    いつものようにダム下の山間の墓近くで遊んでいる時、
    左手の林の中にヒラヒラした白いものが見えた。

    山間のぼろっちい木造で祖父と暮らしていた俺には
    逆に怖いものなんてなかった。

    びっくりしすぎて最早声も出なかったが、
    こっちが何か言うまでもなく向こうが話しかけてきた。


    ベラベラと話しかけてくるが、
    呪文か異国の言葉のようで意味が全然通じない。

    女はひとしきり興奮したようにまくし立てると、
    急に黙り、一言ゆっくりと喋った。

    正直聞き取れなかったが、
    文字に起こすと「~けてじゃあ」って感じ。

    最初の方は聞き取れなかった。

    気がつくと俺は自分の家の布団で寝てた。

    じいちゃんがそばにいて、
    あんな暑いところで遊び続けるなと

    叱られた気がする。

    この辺はうろおぼえ。

    俺は白い女ことは話さなかった。

    それから俺の人生がおかしくなった。

    中学は市内の中学に時間かけて通っていたんだが、
    二、三ヶ月に一回くらい
    ヒラヒラと白い何かが視界をよぎるようになった。

    曲がり角、家の窓、バスから見る景色、遠くの林、
    市内の駅前のデパートの影、ありとあらゆる所でだ。

    そして俺はこの頃何を勘違いしたんだか
    自分のことを基地外だと思っていた。

    中学に上がり
    オンボロノートPCを貰ったりして
    見えないものが見える症状を検索しまくったせいだ。

    あの白い女とチラつく服は
    俺の妄想だと思っていた。

    下手なこと言って頭がおかしいのがバレれば
    病院に連れていかれてがんじがらめに縛られ
    薬漬けにされると本気で信じてた。

    だから稀に見える白い女の影に本気でビクついた。

    極め付けは2月、
    毎年2月の半ばごろになると夢を見る。

    薄暗い部屋に19本のろうそくがあって、
    中央にいる女をぐるりと囲ってる。

    その夢を見るたびに火が灯っていき、
    俺が中学卒業する年には15本、
    つまり歳の数灯っていた。

    夢の中では女が嬉しそうに俺に語りかけてくる。

    長い髪で口元と通った鼻筋しか見えないが、
    嬉しそうにはしゃいだ様子で語りかけてくる。

    夢の中では動けない上に
    距離が遠い+声が小さいので聞き取りづらいが、
    なにかの呪文にしか聞こえなかった。

    こんな状態だが私生活は充実していた。

    勉強はかなり出来た方だし、
    部活のサッカーもそこそこ実力あって、
    クラスでもわりと陽キャラな方だった。

    内心では基地外がいつバレるかビックビクだったが。

    高校ではすっかり病弱キャラで
    いつも友達が気を使ってくれていた。

    高2になるといよいよ受験勉強スタートだが、
    正直それどころじゃなかった。

    この頃になると
    俺はやっと霊的な何かに取り憑かれてんじゃないかと思い始めた。

    なにかと理由をつけてはあっちゃこっちゃの神社や寺に行き、
    お祓いしてほしいと頼み込んだ。

    お祓いするためだけにバイトしてたようなもんだ。

    結論から言うと何の意味もなかった。

    相変わらず白い服がチラチラするし、
    具合は悪化するばかり。

    そして高3の夏、
    俺は通学中熱中症でぶっ倒れ、
    病院に行って運ばれた。

    端折って言うと死にかけた。

    倒れた時に頭コンクリにぶつけて
    急性硬膜下血腫っていうのになったらしい。

    ステロイド点滴して一命とりとめたが、
    再発の可能性もあるとの事だった。

    もうだめだ、
    あの女に殺されると思った。

    駆けつけたじいちゃんが
    命があってよかったとボロボロ涙を流す側で、
    俺は恐怖で大泣きし、
    じいちゃんに全てを打ち明けた。

    もし基地外ならそれでも構わなかった。

    恐怖から逃れたい一心だった。

    正直じいちゃんがどんな反応するか分からなかったが、
    予想だにしなかった反応をした。

    顔面蒼白になり、
    全てを語ってくれた。

    俺には間違いなく霊が付いている。

    それも大の悪霊らしい。

    名前はチヨニキイシと言うらしいが、
    じいちゃんも大昔自分の両親から話半分に聞いただけで、
    大分訛りが入っているそうだ。

    女の悪霊で男を殺して連れ去る。

    神社や寺で見えないのは
    じいちゃん曰く当たり前のことらしい。

    理由はこの地のものではないのだから
    この地のものに見えるはずがない、

    本来この地にいるはずのないものだと言っていた。

    俺に憑いた理由聞くと、
    お前は血が濃く出た、
    そのせいで目に付いたんだとブツブツ言うばかりで、
    何の血が濃いのかは教えてくれなかった。

    ここまで話すとじいちゃんは意を決したように俺に、
    今から下ろせるだけ金を下ろすから大事にしまっておけ、
    俺がどうにかしてやる。

    俺はもうお前の元へは帰れんが、
    失踪届けや捜索願は出さず、
    7年経ったら残りの財産を受け取れ、
    お前の親父のものだ、と伝えてきた。

    おれは泣きながら側についてくれるよう頼んだが、
    何時間も話し合い、
    なんとかじいちゃんになだめられ、
    1人でも強く生きると誓った。

    じいちゃんはもし俺が失敗したら、
    今夜夢を見るだろうと告げた。

    俺が失敗したら、
    初めてこいつを見た山間へ行き、
    こいつの死体を探せ、
    探して油で湿らせた網を顔にかけろと言い聞かせ、
    泣きながら病室を出て言った。

    今思えばあっけない別れだったな。

    その晩、俺は夢を見た。

    毎年2月に見る夢と同じだ。

    いつもと違うのは
    チヨニキイシと俺の間に、
    じいちゃんが座っている事。

    チヨニキイシが大声でじいちゃんに向かって
    呪文のような言葉をまくし立てる。

    驚いた事にじいちゃんも
    呪文のような言葉で怒鳴り返している。

    チヨニキイシが髪を振り乱しながら迫ってくるが、
    じいちゃんが頑として俺の前からどかない。

    その時俺は初めて、
    じいちゃんの肩越しにチヨニキイシの顔を見た。

    彼女のデコには
    一面に謎の言語でびっしりと呪文が書かれていた。

    そして何より恐ろしかったのがその目。

    なーんにもない空洞だった。

    ぽっかりと空いた闇が、
    俺を食い入るように見つめている。

    夢の中では俺は動けないので、
    目をそらすことも逃げることも出来ない。

    しばらく2人は怒鳴り合いを続けていたが、
    やがてチヨニキイシが口惜しそうにゆっくりと後ろに下がって行き、
    ロウソクの中に腰を下ろすと、後ろを向いた。

    じいちゃんがゆっくり振り向くと、
    俺に向かってニッコリ笑った。

    大丈夫さやぁ、
    24の歳までは手出ししないようにしたからな、
    ええか、24までにアレの死体を探すんだ。
    本当なら来年までだったからなぁ、
    ほいだら、達者でやれよ!と告げ、
    俺の肩を叩いた。

    目を覚ますと病室にいた。

    山間では何も見つかっていない。

    もう半分諦めて、
    今は東京にいる。

    夢は見ていない。

    誰かこのチヨニキイシがどこのもんなのか教えてくれ。

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