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しっかり者の祖母
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短編2分
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友人の話。 実家の祖母が急死した。 慌てて帰郷し、 何とか通夜には間に合った。 一息つく間もなく、 翌日の葬儀の準備を手伝わされたという。 葬儀社との打ち合わせを終え、 湯呑みを掻き集めていた母の手伝いに向かう。 先に話した折、 湯呑みの数が足らないと頭を抱えていたからだ。 「お母さーん…ってあれ?」 意外にも、 母はきちんと湯呑みを揃えていた。 食堂の大机の上に、 柄の揃った湯呑みが丁寧に並べられている。 なぜか母はその前で、 呆けたように座っていた。 「よくこれだけ同じ柄の物を集められたね」 労って声を掛けると、 母は首をふるふると振った。 「お義母さんがね、お義母さんがね、 蔵から出してくれたの」 何を言っているのか、 まったくわからない。 母がお義母さんと呼んでいたのは死んだ祖母だけだ。 祖母は今、 通夜が開かれた広間でそのまま安置されている。 「湯呑みが足りなくてね、 お隣さんから借り集めようかと思案していたら、 ガラッと戸が開いて、お義母さんが、お義母さんが入ってきたの。 びっくりして声を掛けたのだけど、何の反応もなくて、奥の方へスーッと。 貴女たちは打ち合わせでいなかったから、慌てて私一人で追いかけたのね。 そうしたらお義母さん、蔵に入って隅の方から箱を引っ張り出したの。 中をあらためると、この揃いの湯呑みがね、入っていたの」 「…お祖母ちゃんは?」 「箱の中身を調べている内にね、 いつの間にかいなくなっちゃったの」 遺体の様子を見に行くから一緒に広間に行ってくれないか、 そう母は頼んできた。 二人して恐る恐る、広間に足を踏み入れた。 何もおかしいところはなかった。 ただ、 閉められていた筈のお棺の蓋が、 半分ほど開いていた。 「自分の葬儀の準備まで手伝っていくなんて、 しっかり者のお袋らしいや」 父は平然とそう述べただけだった。 葬儀は何事もなくしめやかに行われた。 祖母が棺から起き上がるのではないかと、 彼女は葬儀の間中ドキドキしていたが、 そのようなことはなかった。 少しホッとして、 そして同時に、 少し寂しかったという。
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