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男運がなかった人
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学生時代、 私は生活が苦しくて自給1400円のパブでバイトをしました。 その時の常連で、 間宮さん(偽名34 歳)という男性がいました。 間宮さんは非常に温厚でまじめ(らしい)で、 34歳という年齢にもかかわらず女性と殆ど縁がなく、 仕事だけできてしまった方です。 彼は店には殆ど毎日くるようになり、 店のスタッフやママも、 彼を愛称マーちゃんと呼ぶようになりました。 ともかく彼はやさしいので、 店のスタッフの男だろうが女だろうがみんなにも飲み物を勧めたり、 どんな話でも笑って聞いたり、ギャグを言ったりしていたので、 あからさまに嫌な客もいる中でも、 彼が来ると安心するといった存在でした。 そんなマーちゃんのお目当ては恵子さんでした。 恵子さんは離婚していて子供が2人いました。 恵子さんの元夫は、 横暴で激しいやきもちや焼きで暴力が絶えず、 相当精神的に参って逃げるように別居、 やっと昨年協議離婚に至ったという話も、 よく本人から聞かされました。 最近になって居場所を突き止められ、 恵子さんが 「逃げたい…怖い」 ということを漏らしていました。 もちろん、 毎晩マーちゃんと一緒に帰る姿なんぞを目撃されたら殺される… そんな恐怖に怯えていました。 そんな中でも恵子さんとマーちゃんがやっと入籍し、 お店でお祝いをしました。 そして私も卒業も間近になりパブを辞め、 普通のOLとして働くようになりました。 しかし、その年の秋。 新聞を見ると、 私は悲鳴を上げました。 恵子さんの本名が新聞に出ているではありませんか。 しかも死亡記事。 あの恵子さん?まさか?! 山中で事故死。 遺体で発見って…まさか…まさか… 私はピンときました。 事故死を装って、 あの凶暴な元夫が殺したのだろう。 夫婦喧嘩で背骨を折られ、 暫く入院したこともあると言ってたし、 とにかく異常な人間です。 それに、あんな場所に落ちるわけがない。 これは間違いない。 マーちゃんと連絡を取ると、 彼は相当ショックで落ち込んでおり、 食事もろくに取れないという状態でした。 それでも私の顔を見ると、 無理に元気そうにして車を走らせました。 「マーちゃん…警察に電話するね。 事故死は変。事件で捜査してもらう。 あの男に決まってるし。どう考えても」 「そうだね。頼む」 車はどんどん深い森に入り、 ひっそりとした廃棄場近くの森に来ました。 そしてエンジン音が止まりました。 まさか、ここで自殺したいの?? 道づれだけは嫌ぁぁあああ。 心臓の動悸が高まり、 マーちゃんを落ち着かせようと、 いきなり笑い話をしたり必死でした。 20分くらいその静まった森に車を止めて、 二人で他愛ない話をして、 『とにかく変な気は起こさず帰ろう』 という説得をして、 なんとか町に戻りました。 それからマーちゃんから何回か連絡はあったのですが、 また変な気を起こして道ずれにでもされたら…という恐怖もあって、 「忙しくて会えなくてごめんねぇ。頑張ってよ。 今、警察も事件で捜査してくれてる」 という内容のことを言って、 会うのを断りました。 実際、私もなれない仕事に疲れて、 朝の新聞にも目を通さないという毎日でした。 たまに息抜きに、 バイトしていた そこの店にカラオケしに行くことはありました。 年が明けて冬、 店のママから電話がありました。 『それはそうと、とうとう捕まったねぇ。あの男が。 私もなんだか怪しいと思ってたよ』 「あの男捕まって当然でしょう。あんな異常者。 別れて良かったけど、 まさか、そこまで執念深く追跡してたとは… マーちゃんが可哀想だね」 『はぁ???捕まったのは間宮だよ』 翌日、保険金目的の殺人だと知った時は、 足ががくがく震えショックで会社を休みました。 恵子さんには娘さんが二人いました。 ひとりは高校を卒業して大阪に就職が決まって、 家を出た時に入籍したのは知っています。 恵子さんはまだ37歳という若さでした。 下の娘さんは元夫が引き取ったようです。 あまり話上手な人ではなかったけど、 「卒業したら、 ちゃんと昼の仕事だけはまじめにやらんとあかんよ。 若い子がいつまでも水商売してたらあかん」 と、ぽつっと言ってました。 あの時、変だな…と思ったのは、 恵子さんの死んだ状況を マーちゃんがよく知っていたのです。 顔が紫に変色してだの、 腫れ上がって誰だかわからないだの… 普段はとても活発な人でした。 夜の商売してるとは思えないほど、地域活動や、 何かスポーツの団体でも選手で活躍してたみたいです。 ただ、男運のなかった人ですね。 娘さんたちが大きかったので、 少しは救われましたが。 その後は知らないんです… 悲しいかな。 本名だけは知ってたけど。 恵子さんは高知の出身だったですが、 いつも大阪弁でしゃべってましたねぇ…
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