ところで、俺の話も聞いてくれよ。
不思議な話って感じなんだが、
ちょいと喋りたくなったんだ。
俺がまだ中学生だった頃、
地元じゃまだ自然がいっぱい残ってた。
川に竹筒を沈めとけばでかいウナギが取れたし、
山にいけば自生してるビワを勝手に取って食えたわけよ。
当時、俺は悪ガキだったから、
まあ、ホントはやっちゃいけない事も結構平気でやってたのね。
例えば、人様んちの山に勝手に入って作物を泥棒したりとかね。
で、ある日、竹の子が欲しくなって、
夜中に家族が全員寝たのを見計らって、
明け方こっそり抜け出したのよ。
まだ辺りは真っ暗だったけど、
俺は全然平気。
ポケットライトを持ってたけど、
家族に気づかれちゃ困るから、
それも消して山へ出かけた。
そこら一帯は遊びつくしていたから、
自分の庭みたいなもんで、
俺にとっちゃ星明りで十分なわけ。
そんで、かねてから目をつけてた竹林に行って、
いよいよ竹の子探し。
そこの竹林の所有者ってのが、
また怖いジジイでさぁ、見つかったら最後、
鎌もって追いかけてくんだよ。
いや、もうすんごい剣幕でさ。
夜中でも見張ってるから、
ありゃ一種の病気だね。
で、そこでライトを初めて点けたのね。
明かりが漏れないように手の平で隠して。
地面を這いつくばって微妙な土の盛り上がりを探すの。
竹の子は土の上にまだ顔を出さないうちに掘り出して、
生を醤油で食うのがうまいのよ、
これ最強。
俺の頭はもうその事だけしかないのね。
はあ~竹の子食いてー!って。
そんで、見つけましたよ。竹の子。
かすかに土が盛り上がってんの。
俺はもうにんまりしちゃって、
ライトを消して、
もちジジイに見つからないようにね、
いそいそとスコップで掘り始めたわけよ。
掘ってると、
竹の子のとんがりの部分が出てきました。
でも、ちょっとおかしいのよ。
手触りっつうのかな、
形が妙なのね。
ごつごつしてるっつうか。
なんか俺、嫌な気がして、掘るのやめたのね。
で、ペンライト点けた。
そしたら、それ…爪があるのよ。
もろ人間の爪。
指だったのね、それ。
人間の手が、
指先すぼめたようになって、埋まってたの。
指の色は黒くなっちゃって、
もう相当時間たってる。
俺、悲鳴上げた。
死体だ、死体だ、死体だ!って、
もう頭ん中パニック。
俺、その時わかっちゃったんだ。
なんでジジイがいつもここを見張っているのか。
殺したの…ジジイだ。
…俺、ぞっとした。
そん時の俺は、とにかくばれない様に、
ここに来た証拠を消す事しか頭になかった。
もういっぺん死体を埋めて逃げ出す。
ただそれだけ。
だけど埋める前に、
ほんとに人間の手だったかどうか確かめなくっちゃって思って、
怖いの我慢してもう一度ペンライトを当てたの。
だけど、どっからどうみても死人の手。
でもそん時、突然手が動いた。
蛇みたいにすばやく、シュシュッ!!って。
あっと思ったら、
俺、右手をつかまれてた。
俺叫んだ。
うわあーーーーっ!って。
たぶん泣いてたと思う。
無理やり腕ひっぱった。
このまま捕まったら、
殺されると思ったから。
そしたら泥で滑って、
絡みついてた指がはずれたんだ。
指は俺が持ってたペンライトをつかんで、
穴にひっこんだ。
明かりでペンライトが穴に吸い込まれるのが見えたんだけど、
次の瞬間、「ベキベキッ」ってすごい音して、
ペンライトひしゃげちゃった。
そのまま真っ暗になった。
俺逃げました。
よく知ってたはずの山なのに、
どこをどう走ってるんだかわからない。
気づいたら、沢ん中に座り込んで泣いてた。
水で尻までびちゃびちゃになってた。
顔くしゃくしゃにして、
声上げて泣いてた。
そしたら、急に体をつかまれた。
「がしっ」て、わしづかみにされた。
俺、ひーーってかすれるような声出して、
死に物狂いで抵抗した。
そしたら、
「大丈夫だ、大丈夫だ」
って声がしたの。
それ、ジジイだった。
俺、近づいてくる水音さえ気がつかなかったらしい。
ジジイ、すげえ優しかった。
「よかったな、よかったな」
って、何度も俺を抱きしめた。
ジジイに送られて、俺、家まで帰った。
お袋はすげえ怒ったけど、
親父はなんも言わなかった。